インドネシア 多民族国家という宿命 / 水本 達也
世界最大の島嶼国家であるインドネシアは 300の民族集団、 200から 400の使用言語がある、東南アジアでも類を見ない多民族国家だ。 2億人以上がひしめく社会は魅力的な混沌を醸し出している。 一見平和な風景からは、穏健で寛容な秩序が保たれているようにも見える。 しかし、よって立つ場所を変えれば、全く違った「インドネシア」がいくつも顔を出す。 (「はじめに」より)
今月は、ここまで集中的にインドネシアの本を読んできましたが、
この「インドネシア 多民族国家という宿命」という本は
著者が説明していた通り、第二次大戦後のインドネシア独立時に
起因する問題が 6人の大統領の時代を経過しながら、
どう変質してきたかがリポートされていました。
イスラム系テロ組織「ジェマ・イスラミア」の成り立ちを
追いかけていたり、憎悪の連鎖であるインドネシアからの
独立紛争が30年間続いているスマトラ島北部のアチェの歴史が
詳細に説明されていたりと、絞られたテーマについては
かなり深くリポートがなされていたので、
これまでに読んできたインドネシア本で得た知識が
さらに厚くなったような気がします。
著者の水本達也さんは昭和43年(1968年)生まれ!
僕と同じ年です!!
水本さんは、時事通信のジャカルタ特派員で、
2001年から2005年末までインドネシアに
駐在していたそうですので、
まさに、水本さん自身が調べ、知り、体験したことが
そのままダイレクトに書かれているので、
説得力が違いました。
読んでいる途中でも気づきましたし、
あとがきに書かれていたので確信しましたが、
水本さんが約5年間の特派員生活で反応し続けたのは、
「インドネシア」という国の成り立ちに
疑義を呈している人たちでした。
水本さんは言います。
日本人は、日本という国がはるか昔から存在していることを、 決して疑いのないものと信じている。 しかしインドネシアでは、宗教的な立場や民族的な立場から 「本来あるべき姿は、違うはずだ」と反撥するエネルギーがあった。 エネルギーを発する人たちは、あきらめることなく 長い時間をかけて現実を理想に近づけようとしていた。 現実と理想のはざまでは、多くの名もなき民が翻弄されていた。 ただ、目に映る光景だけを見て「かわいそうだ」と同情するには、 彼らはあまりにしたたかで、力強く生きていた。 そして、地位の高い「大きい人」も、庶民である「小さい人」まで、 だれもが快く取材に応じてくれた。
国是の「多様性の中の統一」を
維持しようとするインドネシア政府や国軍と
これらの「本来あるべき姿は違うはずだ」と反撥する
人びととの宿命がタイトルどおり、この本を貫いています。
夥しい数の人が死にました、
憎しみと、悲しみが渦巻きました、
対立、交渉、弾圧、そして爆弾テロ。
政争、扇動、内部抗争、そして暴力の連鎖。
第二次大戦後のインドネシアが歩んだ歴史、
そして、独立宣言時に抱えた多民族国家という宿命。
読み終わると、
この本がインドネシア共和国とその国民の一大叙事詩になって
いることに僕は気がつきました。
最後になりますが、水本さんのあとがきの言葉が
とても印象的でした。
本書のインドネシアを見る目線には高低や明確な善悪はなく、 それぞれの立場の違いがあるだけである。 インドネシアという国家は日本などに比べて確かに脆弱かもしれない。 だからこそ、国家に対する人々の期待や思いは、 日本人のそれよりはるかに真摯だった。 そして、人は必ずしも合理的に動くとは限らないということを、 あらためて思い知らされた。
(僕が読んだインドネシアの本)
・ジャカルタ路地裏フィールドノート / 倉沢愛子
・アジア遊学 No.90 ジャカルタの今を読む / 勉誠出版
・アジアの大都市[2] ジャカルタ / 大阪市立大学経済研究所[監修]
・インドネシア 再生への挑戦 / 石田正美編 アジア経済研究所
・2009年インドネシアの選挙 / 本名 純・川村 晃一編 アジア経済研究所
・インドネシア 多民族国家という宿命 / 水本 達也
(参考)
・じゃかるた新聞 インドネシア最新ニュース
・インドネシア文化宮 - インドネシア METRO TV(メトロテレビ)東京支局
・インドネシア語技能検定試験 - 日本インドネシア語検定協会
村内伸弘@ムラウチ ドットコム♣
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